窓口・渉外お役立ちコラム

改正入管法と在留外国人顧客の管理

弁護士 川西 拓人 講師

2019.07.01

 今回のコラムは、2019年4月1日から施行された出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という。)の改正と在留外国人顧客の管理について紹介します。

1 改正入管法の概要

 改正入管法では、これまでの専門的、技術的分野に限定した外国人の受入制度を緩和し、単純労働分野にも幅広く外国人労働者を受け入れるため、新たな在留資格を設けました。
 このような改正が行われた背景には、改正前入管法の技能実習制度において、制度の目的は我が国滞在中の外国人に技能を習熟させ、母国に帰って技能を発揮、承継すること等にあったにもかかわらず、実質的には技能実習生が人手不足を補う労働力として扱われ、また、技能実習生のうち、来日後に不法滞在者となるような例が多数生じたことがあります。
 改正入管法で新たに設けられたのは以下の在留資格です。

<新たに設けられた在留資格>

特定技能1号  不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する相当程度の知識又は経験を要する技能を要 する業務に従事する外国人向けの在留資格。
● 在留期間は通算で5年が上限とされ、基本的に家族の帯同は不可とされています。
● 在留資格を得るために必要な技能水準や、生活に支障がない程度の日本語能力を有するかについては、試験等で確認されます。
特定技能2号 同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
● 特定産業分野中の「建設」及び「造船・舶用工業」の分野において、熟練した技能を要する業務に従事する外国人が取得できる在留資格で、特定技能1号よりも習熟度の高い外国人を対象とした資格です。
● 在留期間については、更新が必要であるが更新の上限はなく、要件を満たせば家族の帯同も可能となります。

 特定技能1号の「人材の確保を図るべき産業上の分野」は以下の14業種で、向こう5年間で、農業分野では3万6,500人、漁業分野では9,000人の外国人労働者の受け入れが見込まれています。

< 特定産業分野と受入見込数>

特定産業分野 受入見込数(向こう5年間)
1 介護業 60,000人
2 ビルクリーニング業 37,000人
3 素形材産業 21,500人
4 産業機械製造業 5,250人
5 電気・電子情報関連産業 4,700人
6 建設業 40,000人
7 造船・舶用工業 13,000人
8 自動車整備業 7,000人
9 航空業 2,200人
10 宿泊業 22,000人
11 農業 36,500人
12 漁業 9,000人
13 飲食料品製造業 34,000人
14 外食業 53,000人

2 外国人顧客の管理

 改正入管法の施行を受けて、在留外国人の増加が見込まれ、JAにおいても、貯金取引を初めとする在留外国人との取引が増えることが考えられます。

(1) 円滑な預金(貯金)口座利用への取組み

 政府は、改正入管法の成立を受けて、「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」を公表しており、在留外国人が我が国で生活していくにあたっては、「家賃や公共料金の支払、賃金の受領等の様々な場面において、金融機関の口座を利用することが必要となることから、外国人が円滑に銀行口座を開設できるようにするための取組を進めていく必要がある。」としたうえで、以下の取組みを求めています。

● 全ての金融機関において、新たな在留資格を有する者及び技能実習生が円滑に口座を開設できるよう、要請する。また、多言語対応の充実や、口座開設にあたっての在留カードによる本人確認等の手続の明確化など、銀行取引における外国人の利便性向上に向けた取り組みを行うこと。
● こうした取組について、金融機関において、パンフレットの配布等を通じてその内容を積極的に周知するとともに、ガイドラインや規定の整備に取り組むこと。

(2) マネー・ローンダリングへの適切な取組み

 他方、昨年12月に国家公安委員会から公表された「犯罪収益移転危険度調査書」には、来日外国人が関与したマネー・ローンダリング事案が挙げられています。具体的には、①本国に帰国した外国人や死者の口座について、解約手続等の措置を執ることなく利用し、詐欺や窃盗等の犯罪による収益を収受又は隠匿した事例、②来日外国人が帰国する際に犯罪グループに売却した個人名義口座が特殊詐欺の振込先に悪用されたもの等があります。

 また、2017年中のマネー・ローンダリング事犯の検挙事例のうち、外国人によるものは27件、全体の7.5%を占めるとのデータがあり、外国人によるマネー・ローンダリング事犯のおそれにも留意を要します。

 特に、在留外国人については、付与された在留期間に限って日本に在留することができ、日本における就労や留学を目的として開設された口座は、在留期間が満了することによって、開設の目的は消滅します。そのため、本来は在留期間満了時に口座を解約して貰うべきですが、実際には、全ての外国人が帰国前に解約を行うことはなく、預貯金口座が売却されるケースが生じています。

● 口座開設時の留意事項
 JAとしても、このようなマネー・ローンダリング事犯を防止するため、貯金口座開設時に在留カードにより在留資格・期間を確認し、在留期間の終了時期を把握しておく必要があります。また、例えば、在留期間終了間際で貯金口座開設の申し込みがされる場合や、在留資格が留学となっているにもかかわらず、取引目的が給与の受取となっている場合などについては、取引の謝絶まで含めた検討が必要と考えられます。

● 帰国時の口座売買への対応
 帰国時の口座売買への対応としては、口座が譲渡禁止であることを十分に理解していない外国人の存在も想定されることから、口座の譲渡が法令上禁止されること、帰国時には口座解約手続きが必要となることを、口座開設時にパンフレット等で周知する取り組みが考えられます。また、口座開設時等に、当該外国人顧客の了解を得たうえ、外国人労働者の受入機関である就労先企業から在留期間の更新状況、就労状況、帰国の時期等について情報提供を受けられるよう、予め取り決めをしておくことなども考えられます。

3 おわりに

 上記のとおり、外国人の顧客管理には、一定のマネー・ローンダリングの対応が必要となります。しかし、金融機関が外国人顧客に積極的な対応をとることは、農業を含む我が国の産業の慢性的な人手不足を解消し、外国人と共生する社会を実現するうえで重要な意味を持ちます。
 JAの皆様においては、適切な顧客管理を行いながら外国人顧客との取引を円滑に進める取り組みを行って頂ければと思います。

以上