窓口・渉外お役立ちコラム
消費税率引き上げの税実務への影響について
税理士 河野 利明 講師
2019.05.07
1 消費税率引き上げのスケジュール
消費税率10%への引き上げがいよいよ間近に迫り、2019年10月1日以降の資産譲渡(物品等の販売)や役務提供(サービスの対価)に対する消費税率は10%となります。一方で、二度にわたる引き上げ延長の間に軽減税率導入が決まり、食料品や日刊新聞の購読料が8%の軽減税率の対象となります。
以下、何かと話題豊富な軽減税率の適用対象についての細目や消費税引き上げに連動した他の税制(所得税や贈与税)への影響について解説していきたいと思います。
1 軽減税率の範囲について
軽減税率対象取引は、次の二つです。
(1)「飲食料品」の譲渡 | 「飲食料品」とは、人が飲食するすべての飲食物(添加物を含む)をいいますが、以下のものを除くとされています。 ① 酒税法に規定する「酒類」、つまり、アルコール分一度以上の飲料(酒税法第2条) ② 医薬品、医薬部外品(いわゆる薬事法に規定されているもの) ③ 外食(「飲食設備」のある場所で行われる食事の提供) |
(2)「定期購読契約がされた新聞」の譲渡 | 一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する、週2回以上発行される新聞をいいます。 ① 軽減税率の対象となるもの ・スポーツ新聞、業界紙 ・発行予定日が週2回以上とされていれば、休刊日があることによって、結果として週1回しか発行されない週があっても軽減税率対象となります。 ② 標準税率が適用されるもの ・コンビニや駅の売店などで販売する新聞 ・電子新聞 ・週1回しか発行されない新聞 |
<「飲食料品」の判定例 >
標準税率(10%)適用 | 軽減税率(8%)適用 |
畜産業者が生きている肉用牛を譲渡 | 食用の生きた魚介類を販売 |
家畜の飼料やペットフードの販売 | 刺身など食用として販売されたのち、「あら」などの一部が肥料として使われる鮮魚の販売 |
菓子の原料となるリキュール(酒類)の販売 | ノンアルコールビール、甘酒(アルコール分1%未満)の販売 |
滋養強壮ドリンク(医薬部外品)の販売 | 特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品の販売 |
果物の苗木、種子(植えるもの)の販売 | 食品添加物としての金箔の販売 |
いちご狩り、梨狩りなどの入園料 | 自動販売機のジュースやパン、お菓子等の販売 |
<「外食」の判定例 >
標準税率(10%)適用 | 軽減税率(8%)適用 |
テーブル、いす、カウンターなどの設備のある場所で行う食事の提供 | カウンターなどのない屋台(祭事の出店など)で行う食事の提供 |
食堂車での飲食 | 列車内のワゴンサービスでの飲食料品の販売 |
ホテルのルームサービス | ホテルの部屋に備え付けてある冷蔵庫内の飲料(酒類以外) |
学生食堂、社員食堂での飲食 | 有料老人ホームの飲食品の提供 |
ケータリング、出張料理 | テイクアウト、宅配、出前 |
カラオケボックスでの飲食 | 野球場や映画館の売店における飲食料品の販売 |
2 消費税率引き上げによる他の税制への影響
(1) 直系尊属から住宅取得資金贈与を受けた場合の非課税限度額の大幅拡充
直系尊属から、住宅を購入するための資金の贈与を受けた場合、一定の要件のもと、非課税の取り扱いができますが、その非課税限度額の大幅拡充が予定されています。
①消費税率10%が適用される場合
住宅用家屋の取得等に係る契約の締結期間 | 良質な住宅用家屋 | 左記以外の 住宅用家屋 |
2019年4月1日~2020年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
2020年4月1日~2021年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2021年4月1日~2021年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
②上記①以外の場合(現行と同じ非課税限度額)
住宅用家屋の取得等に係る契約の締結期間 | 良質な住宅用家屋 | 左記以外の 住宅用家屋 |
2016年1月1日~2020年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
2020年4月1日~2021年3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
2021年4月1日~2021年12月31日 | 800万円 | 300万円 |
(2) 住宅ローン控除の特例の創設
消費税率が10%に引き上げられることに伴って、2019年10月1日から2020年12月31日までの間に居住の用に供した場合に限り、住宅ローン控除の期間を3年間延長して13年間とする特例を創設します。(平成31年度税制改正)
住宅(建物)には消費税がかかるため(土地取引は消費税が非課税です)、需要が減退する国民経済的なリスクに備える意味で、2020年までの間、消費税率10%が適用される住宅の取得等について、住宅ローン控除の控除期間を3年間延長し13年間とされます。ただし、延長された3年間の控除額については、一定の上限が設けられます。
控除年 | 年末住宅借入金残高 | 控除率 | 最大控除額 |
居住年~10年間 (現行通り) |
上限4,000万円 (注1) | 1% | 40万円 (注2) |
11年目~13年目 (今回の特例!) |
以下の①と②のいずれか少ない額 ① 年末住宅借入金残高(4,000万円を限度(注1)×1% ②{住宅(建物部分)の取得等の対価(消費税抜き、4,000万円が限度)×2%÷3} |
4,000万円(住宅取得対価の上限額)×2%÷3=266,666円 |
(注1) 対象となる住宅が認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅である場合は、5,000万円です。
(注2) 対象となる住宅が認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅である場合は50万円です。
本制度の趣旨としては、控除期間を3年間延長しておいて、その3年間で、消費税率引き上げによって、住宅取得コストが割高になってしまう部分、端的には「建物の取得価額×2%(新消費税率10%-現行消費税率8%)」を税額から控除する(つまり税金を安くする)ことによって、消費税率引き上げによる、家計の負担増を打ち消そうという発想です。
以上