窓口・渉外お役立ちコラム

民法改正(定型約款)について

弁護士 川西 拓人 講師

2018.11.01

 今回のコラムでは、2020年4月施行の改正民法のうち、JAの取引規定や契約書と関係が深い、「定型約款」に関する改正内容を紹介します。

 JAの取引においては「約款」や「規定」と称される約定が数多く用いられています。
 改正民法では、現行法では明確でなかった「定型約款」の定義や要件が定められています。

 民法の原則によれば、契約当事者がその内容を認識していない場合、契約に拘束されることはありませんが、「定型約款」については、一定の要件を満たせば、顧客が個別の内容を認識していなくとも、その内容に拘束されることとなります。

 個別の約定が改正民法における「定型約款」に該当するか否かは、以下の3つの要件にて判断されます。

【 定型約款の判断要件 】

① 不特定多数要件:不特定多数の者を相手方として行う取引であること
② 画一性要件:取引の内容の全部又は一部が画一的であることが契約当事者双方にとって合理的であること
③ 目的要件:契約の内容とすることを目的として準備されたものであること

 一般に、金融機関においては、預貯金規定、振込規定、インターネット取引規定、カードローン契約等が定型約款に該当すると考えられます。他方、農協取引約定書や事業性の融資に関する金銭消費貸借契約書については、利用者から修正の交渉がなされることも有り得るため、原則として、定型約款に該当しないと考えられています。
 住宅ローン契約については、原則として定型約款に該当すると考えられますが、実体に応じて判断すべき、との意見もあるところです。

 「定型約款」に盛り込まれた条項については

【 定型約款の「組入要件」 】

① 定型約款を契約の内容にすることを合意したとき
② あらかじめ定型約款を契約内容とすることを相手方に表示していたとき

 のいずれかが満たされる状況で定型取引の合意がなされた場合、相手方が個別の約款の条項を理解していなくとも、定型約款の条項が契約内容となる(合意したものとみなされる)こととされています。①及び②の要件は約款の「組入要件」と呼ばれています。

 JAにおける約款に基づく取引では、申込書の冒頭に「以下の規定に従うことを承諾のうえ」とか「別途定める○○規程にしたがって」などと、当該取引に特定の約款が適用されることを記載している例が多く、このような場合は①の要件を満たすこととなります。

 また、合意の前後に相手方が定型約款の内容を知りたい場合があることから、定型約款を準備した者は、相手方から請求があれば、遅滞なく、相当な方法で定型約款の内容を示さなければならないこととされています。したがって、JAにおいても、顧客から要請があれば、速やかに約款が記載されたホームページを案内するなどの対応が必要となります。

 一般に、定型約款の内容は、企業が自身に有利に設定し、消費者に一方的に不利な条項が含まれるおそれがあります。そのため、改正民法では、いわゆる不当条項(相手方の権利を制限したり義務を重くしたりする条項で、取引の態様、実情、取引上の社会通念に照らして信義則に反するほどに相手方の利益を一方的に害する条項)については、合意内容から排除されることとし、相手方の利益が不当に害されることのないようバランスをとっています。

 このような定めは消費者契約法にも同様の条項があり、例えば貯金取引やインターネットバンキング取引のように、消費者契約法上の「消費者契約」に該当し、かつ、「定型約款」にも該当するような取引においては、その双方の規制が問題となります。

 定型約款を設ける企業側のメリットとしては、一定の要件のもとで、相手方と個別の合意を行わなくとも一方的に定型約款の内容を変更することが可能であることが挙げられます。不特定多数の相手方と取引をする定型約款では、全ての相手方と変更合意を個別に行うことは難しい場面があることに配慮したものです。
 ただし、このような定型約款の変更には、実体面(変更内容の面)及び手続面双方において、以下のような要件を満たす必要があります。

【 実体要件 】

 ① 相手方の一般の利益に適合するとき
 ② 契約をした目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無・内容その他の変更にかかる事情に照らして合理的なものであるとき

【 手続要件 】

 約款変更をするときは、効力発生時期を定め、かつ、約款変更する旨・変更後の約款内容・効力発生時期を、インターネットの利用など適切な方法で周知しなければならない。
※ 上記実体要件の②による約款変更をするときは、効力発生時期の到来までに周知をしなければ約款変更の効力は生じない

 上記実体要件の①は、サービス向上や料金の引き下げなど、利用者全体にとって利益となる変更内容が想定されます。

 実体要件の②は、相手方にとって不利益な内容であっても変更可能となるケースです。そのような変更の有効性につき考慮すべき要素として、契約目的に反しないこと・変更の必要性・変更後の内容の相当性・変更条項の有無・内容等が挙げられていますが、これらは例示に過ぎず、変更に関する事情を総合的に考慮してその合理性が判断されることとなります。

 どのような変更であれば合理性が認められるかは未だ不明確で、これからの実務の中で定まっていくものですが、例えば、いわゆる暴力団排除条項(契約の相手方が暴力団関係者等であったときに契約を解除できる旨の条項)を規程に追加する等の例は、旧法下の裁判例(福岡高判平成28年10月4日等)からも合理性が認められやすいと考えられます。

 手続要件については、定型約款変更の周知期間をどの程度とするかが問題となります。この点は具体的に定めがあるわけではなく、相手方の属性や人数を考慮する必要がありますが、少なくとも1か月程度は必要でないか、との意見があります。

 以上のとおり、改正民法における定型約款の定めは、企業の「集団的に契約関係を処理したい」との要請と、消費者側の利益のバランスをとって定められています。

 JA窓口において約款の有効性が問題となるケースが多いとはいえませんが、改正民法の重要事項ですので、上記のような定型約款の基本的な考え方については、理解しておいて頂ければと思います。

以上