窓口・渉外お役立ちコラム

民法改正(消滅時効)について

弁護士 川西 拓人 講師

2018.08.01

 今回のコラムでは、2020年4月施行の改正民法のうち、JAの債権管理との関係が深い、消滅時効に関する改正の内容を紹介します。
 改正のポイントは、大きくは3つです。
① 商事債権や職業別等の短期消滅時効が廃止、時効期間がシンプルに統一されたこと
② 「知った時から5年」という主観的起算点での消滅時効が加えられたこと
③ 複雑だった時効の「中断」「停止」制度が「時効の完成猶予」「更新」へ整理されたこと

1 時効期間の統一と主観的起算点の導入

 現行民法では、例えば飲食料、宿泊料では1年、医師の診療報酬等では3年などの職業別に債権の短期消滅時効が定められているほか、商事債権については5年の消滅時効の特例が定められています。
 しかし、これらの規定はその適用の有無の判断が難しく、また、現在の社会経済情勢に合っていないのではないか、との意見がありました。
 そこで、改正民法では、短期消滅時効の特例を廃止したうえで、時効期間について原則として統一するため、「権利を行使することができる時から10年」という客観的起算点に基づく時効期間に加えて、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」という主観的な起算点に基づく時効期間を設け、いずれか早い方の経過で消滅時効が経過することとしました。

 JAの業務においては、債権発生の時点でJAが「権利を行使することができること」を知らないことはあまり考えられず、改正後は、債権発生から5年間をベースとして債権管理を行っていくこととなります。
 これまで、JAが持つ貸金債権の消滅時効については、JAは商人ではないことを前提として、債務者が商人であれば5年間、商人でなければ10年間として管理されていたと考えられますが、10年間として管理してきた債権については管理の変更が生じ得ますので注意が必要です。
 なお、JAに対する貯金債権についても、現行民法では、貯金者が商人でなければ法律上の消滅時効期間は10年ですが、改正民法下ではこれも貸金債権と同様となることにも注意が必要です。

現行民法・商法 改正民法
飲食料・宿泊料・入場料等の債権等 権利を行使できる時から1年(民法174条) ①債権者が権利を行使できることを知った時から5年
②権利を行使できる時から10年
のいずれか早い方
(商法522条の商事消滅時効は削除)
生産者・卸売商人・小売商人の代金債権等 権利を行使できる時から2年(民法173条)
医師・助産師の債権、設計・施行・監理業者の工事に関する債権等 権利を行使できる時から3年(民法170条)
商事債権一般 権利を行使できる時から5年(商法522条)

2 時効の「完成猶予」と「更新」

 現行民法における時効の中断制度として時効の「中断」と「停止」の制度があります。
 時効の「中断」は、裁判上の請求や債務の承認等により認められるものですが、その効果は、時効が完成すべき時点が到来しても時効完成が猶予される「完成猶予」の効果と、新たにゼロから時効期間を進行させることのできる「更新」の効果、の二つが認められるものですが、用語として「中断」という言葉から想像しにくい内容となっていました。

 また、現行民法上の時効の「停止」の制度の効果は、専ら時効の完成が猶予されるに留まるのですが、「停止」という言葉からすれば、あたかも時効の進行自体が途中で止まるようなイメージを持ち、わかりにくいとの意見がありました。
 そこで、改正民法では、
① 時効の完成を猶予(一時停止)する「時効の完成猶予」
② 時効期間を新たにゼロから進行させる「更新」
の2つに、その考え方を整理しました。

 消滅時効の時効完成猶予・更新についての考え方の概要は、以下の表のとおりですが、これまでは時効「中断」の効果を持つとされていた仮差押、仮処分については、催告と同様に6か月の完成猶予の効力のみとされたことは、JAの債権管理にも影響があり得る点といえます。

時効の完成猶予 更新
1 裁判上の請求等
裁判上の請求、支払督促、訴えの提起前の和解、調停、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加
左記の事由が終了するまで。
ただし、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合は、その終了の時から6ヵ月経過するまで
確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、左記の事由が終了した時から新たに進行を始める
2 強制執行等
強制執行、担保権の実行、担保権の実行としての競売、財産開示手続
左記の事由が終了するまで。
ただし、権利者が申立てを取り下げた場合または左記の事由が法律の規定に従わないことにより取り消されることで終了した場合は、終了の時から6ヵ月経過した時まで
左記の事由が終了した時から新たに進行を始める。
ただし、申立ての取り下げまたは左記の事由が法律の規定に従わないことにより取り消された場合は、この限りでない
3 仮差押え等
仮差押え、仮処分
仮差押え・仮処分の事由が終了した時から6ヵ月経過した時まで
4 承認
権利の承認
権利の承認があったときから新たに進行

 また、改正民法では、時効完成猶予に関する新たな制度として、権利についての協議を行う旨の合意による時効完成猶予の制度が設けられました。
 現行民法では、当事者同士で権利関係を巡って紛争となっていた場合、その解決のために協議を継続していたとしても、時効の完成が迫るとその中断のために訴えを提起するなどの法的手続をとる必要があり、これが当事者間での速やかな紛争の解決を阻害している、との意見がありました。

 そのため、改正民法では、当事者間で、権利についての協議を行う旨の合意が「書面」又は「電磁的記録」でされたときには、時効の完成を猶予することとしました。この合意があった場合、次のいずれか早い時点まで時効の完成が猶予されます。
① 合意から1年経過時
② 合意による協議期間(1年未満)経過時
③ 一方から相手方に対する協議続行拒絶通知から6か月経過時
 猶予期間内に合意を繰り返すことで更なる猶予は可能ですが、その限界は、本来の時効の完成すべきときから5年までとされています。

 JAの債権管理への影響としては、債務者との間で債権の有無や金額について意見の相違があるものの、協議や交渉自体は継続しているとき、これまで消滅時効期間の経過を防ぐために訴え提起等を行っていたところ、当該合意により時効の完成を猶予することが考えられます。改正民法自体には、「書面」や「電磁的記録」に特に様式についての定めがあるわけではありませんが、合意自体の立証は後に必要となりますので、この制度に沿って合意を行う場合には、その内容についてリーガルチェックを受けておきましょう。

以上