窓口・渉外お役立ちコラム

マネロンガイドラインについて

弁護士 川西 拓人 講師

2018.05.01

 2018年2月6日、金融庁からJAを含む金融機関向けに「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「マネロンガイドライン」といいます。)が公表されました。

 この背景には、2019年にFATF(Financial Action Task Force、金融活動作業部会)の第4次対日相互審査が予定されていることがあり、金融庁は監督指針改正や専門部署の設置、立入検査などによってマネロン等対策のモニタリングを積極的に行っています。

 今後、JAを含む地域金融機関においては、マネロンガイドラインに沿ってマネロン等対策の改善が求められていくことが予測されるため、今回はこのマネロンガイドラインの概要を解説します。

1 FATF第4次対日相互審査とは

 FATFとは、マネロン等対策の国際協調を推進するための政府間会合で35か国・地域及び2つの国際機関(2017年11月現在)が加盟しています。
 FATFは加盟国のマネロン等対策の状況について「相互審査」と呼ばれる審査を行い、その結果を踏まえてマネロン等のハイリスク国の公表などを行っています。FATFからハイリスク国に指定されるとその国の金融機関は、海外金融機関から外国為替業務に関する契約を解除されたり、海外送金が困難となったりするおそれがあり、その影響は甚大です。

 来年(2019年)には、FATFの第4次対日相互審査が予定されており、来年10月から11月にFATF審査団が個別金融機関に直接インタビューを行うことが想定されています。インタビュー対象の金融機関は現在決まっておらず、JAもその対象から除外されてはいません。

 金融庁は昨年(2017年)、預金取扱金融機関等に広くマネロン等対策の現状のアンケート等の調査を行いました。その結果、特に地域金融機関においては、犯罪収益移転防止法でその作成が努力義務とされる特定事業者作成書面(「リスク評価書」)を作成していない金融機関が多く存在することなどの問題があることが判明しました。

 このような状況を踏まえて、金融当局は中小規模金融機関のマネロン等対策の改善を緊急の課題と考えており、そのためのツールとしてマネロンガイドラインを公表したのです。

2 ガイドラインの概要

(1) 基本的な考え方

 マネロンガイドライン「Ⅰ 基本的考え方」においては、各金融機関が「自らが直面しているリスク(顧客の業務に関するリスクを含む。)を適時・適切に特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講ずること」、すなわち「リスクベース・アプローチ」が不可欠であると述べています。

 また、「マネロン・テロ資金供与リスクが経営上重大なリスクになり得るとの理解の下、関連部門等に対応を委ねるのではなく、経営陣が主体的かつ積極的にマネロン・テロ資金供与対策に関与することが不可欠である。」との記載など、経営陣の関与・理解を強調する記載も特徴的で営業店、管理部門および経営陣を含めた金融機関全体でのマネロン等対策が必要となることがわかります。

(2) リスクベース・アプローチ」

 マネロンガイドライン「Ⅱリスクベース・アプローチ」は、①リスクの特定、②リスクの評価、③リスクの低減の各過程に分類されます。

 「リスクの特定」に関し、マネロンガイドラインで「対応が求められる事項」として、以下の事項があげられており、金融機関が自身の直面するリスクを総合的に検証したうえで対応を行うことが求められています。

① 国によるリスク評価結果等を勘案した自らの取引等のリスクの包括的・具体的検証、マネロン等のリスクの特定
② 検証に当たっての自らの地理的特性、事業環境・経営戦略のあり方等の個別具体的な特性の考慮
③ 取引国・地域の検証に当たって、FATF や内外当局等から指摘を受けている国・地域も含め、包括的な直接・間接の取引可能性の検証
④ 新たな態様による取引を行う場合のサービス等提供前のマネロン等リスクの検証
⑤ 経営陣の主体的・積極的関与、関係全部門の連携・協働によるリスクの包括的・具体的検証

 次に「リスクの評価」の「対応が求められる事項」として、以下の事項があげられています。金融機関において、自身でその所在を特定したリスクがどの程度の危険性を有するものかを評価することが求められています。

① 「リスクの特定」における「対応が求められる事項」と同様の事項
② リスク評価の全社的方針・具体的手法の確立、当該方針・手法に則った具体的かつ客観的な根拠に基づく評価の実施
③ リスク評価結果の文書化とこれを踏まえたリスク低減措置等の検討
④ 定期的なリスク評価の見直し、重大な新事象の発生等に際してのリスク評価の見直し
⑤ リスク評価過程への経営陣の関与、リスク評価結果の経営陣による承認

 さらに「リスクの低減」における重要な点としては「顧客管理」(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD)が挙げられています。特に、マネロン等のリスクが高いと判断した顧客については、より厳格な顧客管理(EDD:Enhanced Due Diligence)を実施することが求められています。

(3) 管理態勢とその有効性の検証・見直し

 マネロンガイドライン「Ⅲ管理態勢とその有効性の検証・見直し」のマネロン等リスクの管理態勢に関しては、「三つの防衛線」の考え方が重要です。

 「三つの防衛線」のうち、「第1の防衛線」が営業部門、「第2の防衛線」がコンプライアンス部門やリスク管理部門等の管理部門、「第3の防衛線」が内部監査部門です。
 JAの営業店は、「第1の防衛線」として顧客対応を行い、マネロン等リスクに最初に直面し、これを防止する役割を担っているのです。

3 まとめ

 現状、JA営業店の実務において、マネロン等のリスクはあまり身近に感じられないかもしれませんが、実際に日本の地域金融機関において、約16億円の犯罪収益が引き出されたとして、大阪府警がナイジェリア人・日本人14人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)容疑等で逮捕した事案が発生しています。

 当該事案では、「ナイジェリア人詐欺集団が日本国内の協力者に「都市銀行以外の金融機関」での口座開設を指示し、国内の協力者が地銀・信金に開設した口座宛に海外から数百万円~数億円を送金し、協力者である日本人が引出額の約4%を報酬として受領した。」と報道されています。

 この事例は、都市銀行に比べてマネロン等の対策が遅れていた地銀・信金が意図的に利用されたケースであり、JAの営業店でもこのようなリスクはあり得ます。

 マネロンガイドラインに沿った営業店の具体的な対応は、今後、内部規程や事務取扱要領の改定等で営業店に示されることが予想されますが、営業店においては、内部規程等をしっかりと理解して「第1の防衛線」の機能を発揮し、犯罪収益の移転等の機会を与えないことが重要となります。

以上