窓口・渉外お役立ちコラム

民法改正とJA実務について

弁護士 川西 拓人 講師

2018.02.01

1 民法改正について

 平成29年5月26日に民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し、 一部の規定を除き平成32年(2020年)4月1日から施行されることとなりました。民法の契約等の規定は、明治29年(1896年)の民法制定後、ほとんど改正されてきませんでした。
 今回の改正は、JAの営業店実務にも影響のある改正事項が数多く含まれます。本コラムにおいては、今回以降、民法改正とJA実務への影響について順次検討していきたいと思います。今回は、個人保証人との保証契約に関する改正事項について検討します。

2 公正証書ルールの導入について

 従来、金融機関による中小事業者への融資の際は、経営者に加えて親族・従業員などの第三者の保証を求めることが多く行われ、多額の保証債務の履行を求められた者の生活が破たんに陥り、破産等を余儀なくされる「保証被害」の問題が生じていました。このような問題を受け、金融機関においては、「経営者保証に関するガイドライン」への対応や金融庁監督指針における経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立等が求められてきた経緯があります。

 こうした流れを踏まえて改正民法では、事業性融資の保証に関する意思確認ルールが設けられ、「経営者等ではない第三者たる個人が事業のための借入による主債務の保証人となろうとする場合は、契約締結前1か月以内に作成された公正証書によって保証債務を履行する意思表示をしていなければ保証が無効となる」こととなりました(公正証書ルール)。

対象となる保証契約は以下のものです。
① 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする通常の保証契約
② 主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約
③ ①及び②の各保証契約の求償権に係る債務を主債務とする通常の保証契約・根保証契約(いわゆる保証会社宛保証)

 ただし、改正民法は、このような公正証書作成ルールの例外として、保証人となろうとする者が次のような「経営者」である場合については公正証書の作成を免除しています。

① 主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役またはこれらに準ずる者
② 主債務者が法人である場合の総株主の議決権の過半数を有する者(その議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社などを含む。)
③ 主債務者が個人である場合の「共同事業者」または主債務者が行う事業に「現に従事している主たる債務者の配偶者」

 公正証書ルールは、これを守らなければ保証契約自体が無効となってしまう強い効力を有するため、営業店窓口でもこれを理解した対応が求められます。
 なお、アパート・マンションローンにおいて推定相続人から保証を受ける場合にも、公正証書ルールに従った対応を求められる場合があると考えられます。現在、アパート・マンションローンが「事業のため」と解されるかどうかについては議論があるため,営業店限りで判断せず本部への問い合わせ等の対応が必要です。

3 保証人への情報提供ルール

 公正証書ルールの他にも改正民法では、保証人への情報提供の観点からの保証人保護ルールが設けられました。

(1)主債務者の情報提供義務
 改正民法では,主債務者が事業のために負担する債務について,保証ないし根保証を委託する場合には,個人の保証人に対し, ① 財産及び収支の状況
② 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
③ 主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容
を説明しなければならないとされています。

 主債務者がかかる義務に違反して上記①から③の情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したために保証人が誤認をし、それによって保証人が保証の意思表示をした場合で、債権者がこのような事情を知り、または知ることができたとき保証人は保証契約を取り消すことができます。

 主債務者の情報提供義務違反は保証契約の取消に繋がるおそれがあるため、JAとしても、かかる情報提供義務の履行を主債務者に任せきりにすることはできず、自ら主債務者や保証人に対し説明義務の履行状況を確認する等の対応が必要となります。

(2)債権者の情報提供義務
 保証人は、主債務者の履行状況を常に知り得るものではなく、特に、保証契約締結後に主債務者が期限の利益を喪失した場合、残元本に加えて多大な遅延損害金を請求されることも有り得ます。
 そのため、改正民法では、債権者にも保証人に対する情報提供義務を課すこととしました。

 まず、保証人が主債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときには、債権者は保証人に対して、遅滞なく,主債務の元本・利息・違約金・損害賠償その他の債務に従たるすべてのものについての不履行の有無・残額とそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならないものとされました。

 このような情報提供は、JAを含む金融機関においてこれまでも保証人からの要請に応じてきたもので実務に大きな影響はないと考えられますが、法律上の義務が明文化されることには留意が必要です。

 また、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失した場合、法人以外の保証人に対しては、当該期限の利益の喪失を知った時から2か月以内にその旨を通知しなければならないものとされました。

 債権者がこの通知を怠ったときは、保証人に対し通知を怠っていた期間の遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものは除きます)を請求することができないこととなります。

JAの営業店においても、本来請求できるべき遅延損害金が請求できなくなる事態を避けるため、期限の利益喪失の場合の保証人への通知を失念しないよう留意を要することとなります。

以上