窓口・渉外お役立ちコラム

印紙税の基本 ~JAの実務との関わり~

税理士 河野 利明 講師

2017.10.02

印紙税って何に課税されるの?

 印紙税の課税対象って何でしょうか?
印紙税の世界では、「文書課税」がキーワードで、紙媒体で作成された契約書や領収書、通帳などが課税対象とされています。
それらの文書に収入印紙を貼り付けて、消印をするという納税手続きが広く知られており、実務として定着しています。
 しかし、紙に課税するということ自体違和感を禁じ得ず、印紙税を体系的に理解しようとするときに、拒絶反応を引き起こしかねません。
 正確には、「経済取引」が印紙税の課税対象なのです。
経済取引においては、金銭等の財貨が授受されるのが常ですので、そこに税負担力を見出して課税するわけです。
 ところで、経済取引という「アクション」は形がないものですから、それ自体に課税するといってもなかなか技術的には困難です。さりとて、取引を行う都度申告書を提出するといった手法は、日々至る所で際限なく行われる経済取引になじまず、不可能と言わざるを得ません。
 そこで着目されたのが、その経済取引が重要であればあるほど、つまり税負担力が大きければ大きいほど、必然的に作成・保存される証拠書類です。
 契約成立の証拠書類である契約書や、金銭授受の証明書たる領収書などから、背景にある経済取引の内容を判断し、まさにその文書の紙面に、郵便局やコンビニ等で購入した収入印紙を貼り付けることで徴税手続きを行うこととしたのです。
 収入印紙の購入が税金の金銭納付であり、申告納税の手続きは、文書に収入印紙を物理的に貼り付けるという、実に特異なシステムと言えます。
無限に行われる経済取引からの「広く薄い」徴税を、こうした「文書課税」の手法によって、きわめて効率的かつ円滑に進めることができる、実に利便性に富んだ税制なのです。
やがて印紙税は広くあまねく社会に定着し、今や契約書と一体化した存在といえます。

 ただ、留意点が2点あります。
(1)印紙税は、印紙税の税額表(印紙税法別表第一)に掲げられた文書のみが課税対象であり、すべての契約書に課税されるわけではありません。
(2)印紙を貼付すべき契約書に印紙を貼っていなくても、印紙税という租税の不納付にはなりますが、契約書自体の法的有効性には何ら影響がありません。

JAの業務と印紙税

 JAの業務、とりわけ信用事業においては、印紙税の課税対象となる文書を日々大量に処理することから、印紙税の納税主体になることが最も多い業種といえます。
 一般的に、個々の事務処理の場面では、申し送りやマニュアル等に基づいて、ある意味機械的に印紙税の課否判断や収入印紙貼り付け等の処理が行われがちです。
 そのため、踏み込んだ判断をせず慣習的に印紙を貼っていなかった文書が後になって税務調査等で課税の指摘を受けるといったリスクが十分考えられます。
 印紙税の仕組みや考え方を体系的に理解することは、日々の業務における正確な印紙税に関する処理に資することはもちろん、これまで印紙を貼っていない文書に内在する「課税リスク」について、個々の現場でタイムリーな「気付き」ができるマインドを醸成できるものと思います。

印紙税がかかる文書

 印紙税の課税対象は、課税物件表(印紙税法別表第一)の物件名欄に掲げられている文書です。
課税物件表では、第1号の不動産の譲渡に関する契約書等から、第20号の判取帳まで、特定の文書を20の号に分類し、それぞれ区分された号ごとに文書の名称、定義、課税標準、税率等が定められています。
 したがって、課税物件表の物件名欄に掲げられていない文書は、その契約等が当事者にとっていかに重要かつ価値の高いものであったとしても印紙税の課税対象になりません(「不課税」)。

印紙税の非課税文書

 また、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書の中で、公益・公共的な当事者が作成した文書や、金額が少額なもの等について、政策的な観点から特に印紙税を課さないことになっていて、これを「非課税」文書といいます。

「文書課税」の重要なもう一つの意味

 文書に収入印紙を貼り付けて納税するという「文書課税」が印紙税の特徴であることはすでに述べたところですが、「文書課税」にはもう一つの実務的にきわめて重要な意味があります。
それは、その文書が印紙税の課税文書に該当するかどうか、また、印紙税額がいくらになるか等の印紙税法上の判断は、すべて文書上に記載された文字・記号・数字のみによって判断するということです。
大胆に言いますと、文書上に表されていない作成者の真の意図や、文言に表れていない実際に行われた行為が何であったかは全く無関係なのです。
文書に記載された文言等がすべての判断基準であって、それらの文言を読解することのみによって、印紙税の課否判断をするということです。
 この判断・読解は、客観的、常識的に行うものとされています。
文書の表題いかんにかかわらず、その内容の一言一句をすべて吟味して、課税される事項(「課税事項」)が記載されているかどうかを読み解きます。また、仮にその文字・記号が、第三者には理解できないような符ちょうなどで表示した文書についても、一歩踏み込んで、そこから常識的に読み取れる真の取引内容を判断します。

印紙税がかかる契約書とはどのようなものか

 ところで、契約とは、相対立する複数当事者の意思表示の合致、すなわち合意により成立する法律行為をいいますので、「申込」 + 「承諾」 = 「合意」 = 「契約成立」という当事者の行為がそこに存在したことが、記載された文言から、読み取れますと、その表題や形式に関わらず印紙税の課税対象となる契約書となります。
 契約書に関して、印紙税法上、課税対象となるのは、①契約(予約を含む)の成立、②更改、又は③内容の変更若しくは④補充の事実を証明する目的で作成される文書です。一方、契約の消滅の事実を証明する目的で作成される文書は不課税です。