窓口・渉外お役立ちコラム

内部通報制度ガイドラインの改正とJA

弁護士 川西 拓人 講師

2017.08.01

1.内部通報ガイドライン改正の経緯

 平成12年ころから、食品の偽装表示、自動車のリコール隠し等の社会的に注目を集める不祥事が続発し、これらの多くが内部告発によって発覚しました。これらを受けて公益通報者保護法が公布・施行され、平成17年7月には、民間事業者向けの指針である「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「内部通報制度ガイドライン」といいます。)が公表されました。

 その後、大企業を中心として内部通報制度の導入は進んだものの、最近でも国民生活に大きな影響を及ぼし、企業の存続のリスクに繋がる不祥事は頻発しています。
 そのような不祥事の中には、会社のコンプライアンスに対する姿勢について社員の信頼が得られていないこと等から内部通報制度による自浄作用が働かなかった事案(例えば、株式会社東芝の第三者委員会報告書においても、発生原因の一つに内部通報制度が十分に活用されていなかったことが挙げられています。)があるほか、内部通報を行った者に報復的な処分等が行われ、企業と労働者の間の紛争に至る例も問題となっていました。

 このような状況を受け、平成28年12月、消費者庁は内部通報制度ガイドラインの改正を公表しました(以下、改正後の内部通報制度ガイドラインを「改正ガイドライン」といいます。)。なお、改正ガイドラインは法令とは異なり、直ちに事業者に強制力を有するものではありませんが、今後、JAを含む事業者が内部通報制度を整備する際の事実上の基準となっていくことが予測されます。

改正ガイドラインのうち特に重要な項目は、以下のとおりです。
①「経営トップの責任」
②「制度の整備・拡充」
③「秘密保持・情報管理」
④「不利益取扱いの禁止」

2.経営トップの責任

 改正ガイドラインは、経営トップの責務として、例えば、以下のような事項について経営トップ自らが明確なメッセージを継続的に発信することが必要であるとしています。

・コンプライアンス経営推進における内部通報制度の意義・重要性
・内部規程や公益通報者保護法の要件を満たす適切な通報を行った者に対する不利益な取扱いは決して許されないこと
通報に関する秘密保持を徹底すること
 また、これに加えて、改正ガイドラインは、①内部通報制度の責任者として経営幹部を選任すること、②経営幹部の役割を内部規程等で明文化することを求めています。

 JAにおいても、内部通報制度の重要性を経営トップが十分に理解し、メッセージを発すると共に、内部通報制度の整備には、経営幹部が責任者として取り組むことが必要です。

3.制度の整備・拡充

改正ガイドラインは、通報窓口の整備について、
・内部窓口に加えて、法律事務所等の外部窓口の設置により、通報の機会を拡充すること
として、内部窓口のみならず法律事務所等の外部窓口を設置することが適当とされています。

また、通報窓口の利用者、制度の対象者についても
・企業グループ全体やサプライチェーン等におけるコンプライアンス経営推進のため、関係会社・取引先を含めた内部通報制度を整備すること
・通報窓口の利用者を従業員(契約社員、パートタイマー、アルバイト、派遣社員等を含む)のほか、役員、子会社・取引先の従業員、退職者等に幅広く設定すること
がそれぞれ、適当であるとして推奨されています。

 JAにおいて、法律事務所等の外部窓口は設置されていないことも多いと思われます。内部通報制度の利用対象者の拡充と合わせて、今後の課題となっていくでしょう。

4.秘密保持・情報管理

 改正ガイドラインは、通報者の所属・氏名や通報の事実に関する秘密保持・情報管理に極めて重きを置き、通報の秘密保持徹底を図るための措置として、

情報共有が許される範囲を必要最小限に限定する
・通報者の所属・氏名等や当該事案が通報を端緒とするものであること等、通報者の特定につながり得る情報は、通報者の書面や電子メール等による明示の同意がない限り、情報共有が許される範囲外には開示しない
何人も通報者を探索してはならないことを明確にする
 が重要としており、通報者の秘密を洩らした者等については懲戒処分等を講じることが必要としています。

 また、個人情報保護の徹底を図るとともに通報対応の実効性を確保するため、匿名の通報も受け付けることが必要とし、匿名での通報の受付の必要性も述べています。

 JAにおいても、通報に関する秘密保持の徹底状況や匿名通報の可否など、現状の内部通報制度の当否について検討が必要となるでしょう。

5.不利益取扱いの禁止

 改正ガイドラインで、正当な通報や調査協力を理由とする不利益取扱いについて、禁止される具体的行為を明らかにしました。

従業員たる地位の得喪に関すること(退職願の提出の強要、労働契約の 更新拒否、本採用・再採用の拒否、休職等)
人事上の取扱いに関すること(降格、不利益な配転・出向・転籍・長期出 張等の命令、昇進・昇格における不利益な取扱い、懲戒処分等)
経済待遇上の取扱いに関すること(減給その他給与・一時金・退職金等に おける不利益な取扱い、損害賠償請求等)
精神上生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)

 これに加えて、不利益取扱いについては、経営トップがその禁止に関するメッセージを発信すること、不利益取扱いが行われた場合、適切な救済・回復の措置を講じること、不利益取扱いを行った者に対する懲戒処分等を講じることも求められています。

6.今後の内部通報制度について

 今回はガイドライン改正について解説しましたが、今後、公益通報者保護法の改正も予定されており、内部通報制度への社会の期待は高まっています。
 JAにおいても、健全な事業運営を通じ、継続的に地域社会での役割を果たすためにも、より実効性のある制度の整備が望まれるところです。

以上