窓口・渉外お役立ちコラム
最近増えている贈与税の非課税特例をご存知ですか?
税理士 河野利明 講師
2017.03.27
1 そもそも贈与って何?
贈与とは、文字どおり人にお金や品物を贈ることです。
法律的には、「自己(贈与者)の財産を無償で相手(受贈者)に与えること」をいいます。
人が無償で金品を他者に与えることは、何らかの特別な動機に基づくものと考えられます。
募金や寄付をする場合は慈善でしょうが、親や祖父母が子供や孫の生活費の面倒をみたり学費を出す等の行為は、いわゆる「扶養」の一環といえるでしょう。
2 「扶養」としての贈与には課税されない
贈与税においては、直系血族、兄弟姉妹等民法上の扶養義務者間で生活費または教育費の贈与が行われたとしても、それが通常の社会常識の範囲で行われている限り、贈与税は課税されません。
ここで生活費とは、最低限の生活を営むためのものではなく、その人の社会的・経済的地位等を考えて、通常の日常生活を営むのに必要な費用をいいます。
また、教育費とは、義務教育費に限定されず、被扶養者の教育上通常必要と認められる大学進学や留学を含む学費、教材費、文具費等をいいます。
3 目的を定めない「一括贈与」は、遺産の前渡しとして贈与税の課税対象となる
2で述べた贈与税が課税されない「扶養」としての贈与は、必要に応じて費用を負担する、いわゆる「都度渡し」です。
一方で、将来の費用に充てるためなどとして、自由な処分が可能な金銭を一括して与えることは、贈与税の課税対象となります。
将来の相続人に対する遺産の前渡しを無制限に(課税なしに)認めてしまうと、相続税の意味が無くなるからです。
ある人が残した遺産に対して、相続の場面か生前贈与の場面かいずれかにおいて課税を完結するというのが、相続税という税制の枠組みなのです。
遺産を継承させる手法には、大別して、①相続、②遺贈、③生前贈与が挙げられます。
税制との組み合わせとしては、①相続及び②遺贈=相続税、③生前贈与=贈与税、となります。
4 贈与税とはどのような仕組みなの?
贈与税は,その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額に対して課税され、贈与のあった翌年の2月1日から3月15日までの間に、申告及び納税をしなければなりません。
贈与税の課税価格から差し引くことのできるものとして、110万円の基礎控除があります。
課税価格が110万円以下の場合は、基礎控除額を差し引くと残額がなくなるので、贈与税はかからず贈与税の申告書も提出する必要はありません。
1年間に贈与を受けた財産の合計額 - 基礎控除(110万円) = 「基礎控除後の課税価格」 「基礎控除後の課税価格」 × 税率 - 速算控除額 = 税額 |
---|
【贈与税の税率(速算表)】
「基礎控除後の課税価格」 | 20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合 | 左記以外の場合 | ||
税率 | 速算控除額 | 税率 | 速算控除額 | |
200万円以下 | 10% | ― | 10% | ― |
200万円超300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
300万円超400万円以下 | 20% | 25万円 | ||
400万円超600万円以下 | 20% | 30万円 | 30% | 65万円 |
600万円超1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 40% | 125万円 |
1,000万円超1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 45% | 175万円 |
1,500万円超3,000万円以下 | 45% | 265万円 | 50% | 250万円 |
3,000万円超4,500万円以下 | 50% | 415万円 | 55% | 400万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
具体例で計算してみましょう。
もし、何の特例も使わずに、1,000万円贈与を受けたら、贈与税の金額は以下のとおりです。
20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合 | 左記以外の場合 | |
---|---|---|
贈与税額 | 177万円 | 231万円 |
贈与税は、とても重い税だということがわかります。
5 子や孫に対する一括贈与に贈与税がかからない特例のあれこれ
平成27年1月1日以降にお亡くなりになった方から、相続税が増税(基礎控除の減額)されたことで、いわゆる相続対策として生前贈与を活用したいというニーズが高まりを見せる中、若い世代の消費を活発にしたい国の政策によって、子や孫などに祖父母などから一括贈与しても、贈与税がかからない制度が次々と登場しています。
概要を示しますと、以下の表のとおりです。
住宅取得資金贈与 | 教育資金の一括贈与 | 結婚子育て資金の一括贈与 | 相続時精算課税 制度 | |
使途 | 住宅取得資金 | 教育資金 | 結婚・子育て資金 | 制限なし |
贈与者 | 受贈者の直系尊属 | 60歳以上の 父母又は祖父母 | ||
受贈者 | 20歳以上の 直系卑属 | 30歳未満の直系卑属 | 20歳以上50歳未満の 直系卑属 | 20歳以上の 子又は孫 |
受贈者の所得制限 | 合計所得金額 2,000万円以下 | 制限なし | ||
贈与できる期間 | 平成31年6月30日まで | 平成31年3月31日まで | 制限なし | |
非課税額の上限 | 時期・住宅種類で異なる (平成28年の一般住宅700万円、優良住宅1,200万円) | 1,500万円 (学校以外は500万円) | 1,000万円 (結婚費用は300万円) | 2,500万円 (超える場合は 一律20㌫) |
贈与の方法 | 制限なし | 金融機関の専用口座に預け入れ・管理 | 制限なし | |
贈与資金の使用 | 贈与年の翌年3月15日までに住宅を取得 | 領収書等を金融機関に提出、 金融機関が保管 | 制限なし | |
贈与者の相続発生時の取扱 | 相続財産に持ち戻さない | 使用されていない残額を相続税産に持ち戻す | 贈与した全額を 持ち戻す |
この機を逃すことなく、各特例の内容をよく理解し、タイムリーかつ適正に活用することが今求められています。