窓口・渉外お役立ちコラム

JAのコンプライアンス・内部統制について解説します

弁護士 川西 拓人 講師

2017.01.26

 JA職員に求められるコンプライアンスとはどのようなものでしょうか。
 コンプライアンスという用語が用いられるようになった当初,コンプライアンスとは「法令を遵守すること」と理解されるのが一般的でした。
 JAにおいても,事業や組織の基本的なルールを定めた農業協同組合法,個人情報の取扱い等を定めた個人情報保護法,取引時確認や疑わしい取引の届出に関する犯罪収益移転防止法,顧客との取引から生じる権利義務に関する民法,取引相手が法人の場合は会社法等,数多くの法令がその業務に関連します。
 しかし,現代において,コンプライアンスとは,法令を守ることだけを意味するのではなく法令「等」を遵守することと理解され,監督指針や検査マニュアルにおいても,法令遵守ではなく法令「等」遵守という言葉が用いられています。
 ここでいう法令「等」には,行政当局の監督指針や検査マニュアルといった規範(このような直接の法的拘束力を持たない規範は「ソフト・ロー」と呼ばれることがあります。)やJAの内部規程や事務取扱要領といった内部規範まで含まれます。

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 さらに,近年では,企業におけるコンプライアンスとは「企業が社会的な要請に応えること」とする考え方があります。
 ここでいう社会的要請とは,例えば,食品を扱う企業であれば安全な食品を提供することを求められ,報道機関であれば十分な取材に基づいて真実を報道することが求められること等が挙げられます。
 企業がとった行動が必ずしも法令に反していなくとも,社会的な批判が殺到し経営に大きなダメージが生じる事例は多くみられ,例えば,平成25年にメガバンクが販売提携ローンを通じて反社会的勢力に融資を行っていたことが判明したケースでは,金融庁が行政処分を下し,報道や世論においても経営陣が大きな批判を受けました。顧客が反社会的勢力であることを認識せず行った融資は,必ずしも法令違反となるものではありませんが,この例では,適法か違法かではなく,日本を代表するメガバンクが反社会的勢力との関係を十分遮断できていなかったことに社会的な批判が集中したものといえます。
 JAも顧客から貯金を預かる金融機関であり,また,農業発展のための協同組織であることから,一般の事業会社に比べその公共性は高い存在です。JAには,顧客から預かった資金を適切に取り扱うこと,農業発展に寄与するため貸出等を通じた金融仲介機能を発揮すること,反社会的勢力との関係を適切に遮断すること等が社会から求められているといえます。

 コンプライアンスと同じく,内部統制という用語も頻繁に耳にする言葉です。
内部統制とは,一般に,企業の適切な業務の遂行を確保するために必要となる体制の整備に関する事項,具体的には,情報の保存管理,リスク管理,効率的な職務執行,法令や定款の遵守,グループ会社管理等について社内の規律や制度を設けることをいいます。
 ここで意識しておかなければならないのは,内部統制は,法令等の遵守やリスク管理だけを指すものではなく,企業が効率的な業務の執行を通じ,取るべきリスクを適切に取り,正しく収益を上げていくためのものであるということです。内部統制は会社経営のブレーキのような存在と表現がされることがありますが,そのような理解は一面に過ぎず,内部統制は,本来,企業が持続的にかつ正しく収益を上げていくための仕組みとなるべきものです。
 現在,JAを含む金融機関の多くにおいて,内部統制システムは金融検査マニュアルが採用するPDCAサイクルとの考え方に基づいて整備されています。
 PDCAサイクルとは,①方針・規程の策定(Plan),②組織体制の整備(Do),③評価(Check)・改善活動(Act)をそれぞれ適切に行っているかを検証する業務改善のプロセスをいいます。このような業務改善のプロセスにおいては,管理方針(P)や規程・組織が整備されているか(D)のみではなく,業務のプロセスを評価し(C),改善に結びつける行動が取られているか(A)が重視されます。

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 JA全体のPDCAサイクルを上手く回すためにも,まずは現場の職員が主体となり,業務の中で規程や手続を実際に運用し,自身の業務に内在するリスクを特定し,その程度を評価し,リスクをコントロールする手段を検討していくことが必要となります。
 営業店の窓口で,コンプライアンスや業務の効率性を含めた内部統制の懸念点や改善点を感じ取れば,積極的に本部と共有し,改善を図っていくことが,PDCAサイクルの起点となります。
 その過程において,現場の職員の皆様には,コンプライアンスとは単に法令を守ればよいというものではなく,社会がJAに求めるものにまで配慮しなければならないものであること,また,内部統制とは,企業が持続的に正しい収益を上げるための仕組みであることを思い返してみて頂ければと思います。